「貝の火」とはオパールのことを表すようです。綺麗なオパールと表現しないで、「貝の火」とする辺りからしてまさに賢治ワールドです。
今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。 実に野原はいいにおいでいっぱいです。
冒頭から一瞬で物語の世界に引き込まれてしまいました。
美しいし、何だか面白いし、本当にいつもながら惚れ惚れします。
ひばりの子供が川に流されているのを助けた兎の子が、その恩返しに「貝の火」という宝珠を授かるのですが、どうやらその宝珠は綺麗な心や善心に反応して輝きを増し、美しく燃えるようでした。
大変な霊宝である「仁の玉」を見た兎のお父さんが言うには、この玉を一生満足に持っていることができたのは僅かな者だけだということでした。
「貝の火」は真の王様の証だったのです。
私は突如、偉くなった兎の子が少しずつ道を誤ってしまうのは無理がないように思いました。
周りの者は一切逆らうことがなく、兎の子の言うがままに従うしかありませんし、善良な心を持った兎の子でも権力を手にすると見失ってしまうのは、幼い子供ならなおさら仕方がないように思うのでした。
そして権力を手にした者には、それを上手く利用しようとする者が近寄ってきます。
この物語ではキツネがそうでした。
お父さん兎がキツネには用心しなさいと忠告をしますが、知らず知らずの内に道を逸れてしまう純粋な兎の子には酷というものです。
まんまとキツネの口車に乗せられ、勘違いしたまま方向修正が出来ず、手痛い思いをしてしまうのでした。
私も急に精神世界のことに興味を持ち始め、そういったことを少し勉強しただけで分かったような気になり勘違いした経験がありますから思うのですが、急に偉くなったり、賢くなったりすることはあり得ないので、「なったつもり」だと考えるべきなんです、きっと。
ただそういうことは痛い思いをして、後になってしばらく時間が経過した時に気が付いたりする場合が多いのようです。
なので兎の子が6日間で「貝の火」の宝珠に愛想を尽かされて、宝珠の愛の鞭で目を白く曇らされて目が見えなくなってしまうのは仕方がないと思う反面、「貝の火」はちょっと厳し過ぎませんか?と兎の子に同情もします。
そんなことなら兎の子がひばりが「貝の火」を持ってきた時に言った通り、宝珠を受け取らなければよかったのにと思ってしまいます。
兎の子は純粋な綺麗な心でこう言ったのです。
「ひばりさん、僕はこんなものいりませんよ。持って行ってください。たいへんきれいなもんですから、見るだけでたくさんです。見たくなったら、またあなたの所へ行きましょう」と…
この物語はたとえ純粋な心の持ち主であっても、権力を手にしてしまうとそれによって目が曇ってしまい、使い方を誤ってしまう怖さ、心の姿を教えてくれているのですね。
それ以上にお父さん兎が最後に言った言葉に本質と希望があるように思えて好きでした。
「泣くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣くな。
以前に読んだことのある作品を、改めて楽しむという遊びを見つけました。
昔に読んだことのある作品を、時間が経過して価値観や人生観にも以前とは違いがある今、再度読み直してみることが私の一つの楽しみです。
大半のものは内容は忘れてしまっていて、タイトル名と作者だけが記憶に残っている場合がほとんどですので、以前とは違う自分が新しい作品を読むような感じになることが楽しくて、私の遊び心に火を灯してくれました。
久しぶりに読み直してみると、忘れていたはずの内容が思い出されたり、その作品を読むに至った経緯なども思い出され懐かしさも堪能できます。
まさに一石二鳥のささやかな趣味を見つけた気持ちです。
また今では、著作権が消滅した作品が「青空文庫」という電子図書で無料で読むことが出来るので、大変ありがたいことです。
「青空文庫」とは
インターネットの電子図書館が「青空文庫」です。
「本を電子化して、誰でも読めるようにしておくと面白い」という考えから始まった取り組みで、ボランティアの方々のお陰で成り立っています。
著作権が消滅した作品が集められますので古い作品が中心になりますが、古典の名作が無料で読めることは本当にありがたいことだと思います。
日本の名立たる文豪の作品が軒並み揃っていますし、どの時代になっても色褪せない機知に富んだ作品は、後世まで残していきたいものですので、読みたい時に誰でも読めるという発想と、その取り組みは素晴らしいの一言に尽きます。
様々なテキストで読むことができるようですが、私は愛用している電子書籍〈ブックライブ〉で無料で購入できるのでそちらで読んでいます。
実を申しますと〈ブックライブ〉で0円で購入できる書籍を発見したことから、「青空文庫」の存在を知りました。
〈ブックライブ〉も有料の同じ書籍を取り扱っているにも関わらず、「青空文庫」が読めるように取り計らってくれているのにも好感が持てます。
良い発見をしました。
HanaAkari