きっと「誰かのせいにしなきゃ耐えられない悲しみって…あるんだよ」ということだったのでしょう。
それが無ければあの時の私は、あの悲しみに耐えきれなかったのだと思います。
このブログは言葉から連想したことを自由に書いています。時に勇気や喜びをもらえたり、慰められたり、癒されたり、言葉には力があるように思います。そんな素敵さや楽しさを少しでも表現できたら幸いです。
【耐えられない悲しみ】どこかに救いもあることを…|言葉の小槌145
【耐えられない悲しみ】
「風に立つライオン」という映画のワンシーンで思い出したことがあります。
国立病院に勤める若き医者が、癌の治療の手遅れが原因で亡くなってしまった患者の、お通夜に行くというシーンがありました。
実直な青年医師は、亡くなった患者とその旦那さんに「この国立病院では半年先まで入院の予約が詰まっているので今すぐに手術することが出来ないけれども、癌は進行するので一刻も早く別の病院で手術をされるべき」だと何度もその方々を説得しようと努力されたのですが、ご夫婦は「国立の病院でないと信用できない」と頑なに拒絶されたのです。
半年ほど経過して国立病院に入院した時には、時すでに遅しで患者は亡くなってしまいます。
このような経緯もありながらも青年医師は同僚の反対を押し切って、亡くなった方のお通夜の行きました。
その場面では、最初は客観的に見ていた私は「なんて理不尽なことだろう」と思いました。
お線香をあげに来た青年医師に対して、患者の旦那さんが怒りを露わにして「お前のせいで妻が亡くなったんだ」「お前が妻を早く入院させてくれれば、こんなことにはならなかった」と罵り、泣き崩れる男性が痛ましいですし、同様に黙って立ち尽くす青年医師にも心の苦痛に耐え忍ぶ姿がありました。
「誰かのせいにしなきゃ耐えられない悲しみって…あるんだよ」
青年医師の言葉が私の記憶の扉を開きました。
私は母を癌で亡くしましたが、その時のお通夜のことが思い出されました。
母の癌は癌の位置が悪く手術が出来なかったので、当時の西洋医学では抗癌剤を使用しても100%治りませんが、延命になりますという診断を受けたのです。
それを聞いた私は青年医師に怒りをぶつける男性のように、担当医に対して強い憤りを覚え「それはあなたのやり方では治せないということでしょう?」「100%治らないというのはおかしくないですか?」と言葉を荒げたのでした。
それから民間療法やら、免疫活性に着目した癌セミナー、食事療法と様々な治療法を探してきては、私は母に努力を強要しました。
今だから思うことは母は自分の為というよりは、躍起になっている私の為に頑張ってくれたのだと思います。
どれだけ必死になっても治ることがなく、じわじわと追い込まれていく感覚が私にはありました。
最終的には気孔のようなスピリチュアルヒーリングとの縁もできました。
当時、私は目に見えないものを簡単に信じることが出来なかったのですが、実際に体験してみると「何かしらの効果がありそうだ」という体感があり、藁をもつかむ思いで母も私もスピリチュアルヒーリングに飛び込んだのです。
周囲の人々は大反対でした。
怪しい、騙されている、当時の友人からも「お前がそんなことをするなら縁を切る」とも言われましたし、父も弟も大反対で特に父に関しては取り付く島もなく、喧嘩の種になってしまったほどです。
あの時は渾然一体、色んなことが絡み合って大荒れになってしまいましたが、母はその全ての騒動を死と共にあちらの世界へと持ちさってくれたようで、残された私たちに大きな禍根が残らなかったことは有難いことです。
しかしながら、お世話になったスピリチュアルヒーリングの先生がお通夜に来て下さった時にも、父は顔を出さずに、流石に「帰ってくれ」とは言わないものの、あからさまに避けていました。
先生が帰ってから私に対して「よくここに来られたな」と一言こぼしたのを思い出します。
きっと「誰かのせいにしなきゃ耐えられない悲しみって…あるんだよ」ということだったのでしょう。
逆に私にはどのような方であれ、そうして母の為に来て下さる方々は、私にとっての心の支えになりましたし、周囲の人からどれ程スピリチュアルヒーリングのことを悪く言われても、それが無ければあの時の私は、あの悲しみに耐えきれなかったのだと思います。
「耐えられない悲しみ」は人それぞれなのだと思いますが、それぞれにどこかに救いがあったことが幸いだったのかもしれません。
「風に立つライオン」について
「風に立つライオン」はさだまさし氏の歌から小説化、映画化されたメッセージ性の強い作品です。
アフリカで医療活動に従事する医師のことを主にして、その周囲の人々の語りを通しながら、受けての心の奥底に何かしらを訴えかけてくるような作品です。
私は歌から小説、そして映画という流れで「風に立つライオン」を楽しませてもらいましたが、それぞれにその持ち味があって、この作品に御縁があったことに感謝致します。
ただの感動物語というだけでない、現実にある人間の醜く暗い部分の描写も生々しいですが、そういったことに葛藤もありながらも真正面から向き合い、一生懸命に生きる物語の中の人物の心が、ひときわ夜空に明るく輝く北極星のように、大切なことへの方向を指し示しているように感じました。
HanaAkari