「杜子春」 芥川龍之介著 を読んで

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杜子春 〈芥川龍之介〉作品を読んで
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人間らしい正直な暮らしとは?杜子春が身をもって教えてくれたように思います。

「杜子春(とししゅん)」一度聞いただけで、記憶に残る名前です。

話の内容もなんとなく憶えていたのですが、この物語で一番憶えていたことは、小学生の頃の図工の授業で「杜子春」の物語を読んで、そこから物語にちなんだ絵を描くことがあったことです。

私が絵の題材に選んだのは物語の佳境部分で、杜子春が仙人との約束を破り、声を出してしまう部分でした。

この物語の肝になるところなので、そこを絵の題材に選んだのはなるほどなのですが、今から思い起こしますと、絵にするには逆にハードルが高かったのではないかなと思います。

今なら違う場面を選ぶでしょう。

お金持ちの息子だった杜子春が散財の末、落ちぶれて洛陽の都で佇んでいると、どこからともなく現れた老人が、ここ掘れワンワンの要領で杜子春に金のある場所を教えます。

素直に従った杜子春は莫大なお金を手に入れ、豪遊の日々を送るのですが三年でお金を使い果たし、元の木阿弥となってしまいます。

そんな折、例の老人が再び現れ、素直にその言葉に従うことで、再度贅沢三昧の生活を送ります。

そしてまた三年で全てを使い果たしてしまいます。

仙人

杜子春のなかなかの散財癖には呆れてしまいますが、もしかしたらそんなものなのかもしれないとも思ってしまいますが、羨ましくもあります。

だってそれだけの贅沢三昧が夢のようなものですから。

一夜にしてお金持ちになった杜子春の家の庭には、日に四度も色を変える牡丹が植えられていて、白孔雀が何羽も放し飼いにされていたようです。

車は香木でできていて、象牙、葡萄酒、翡翠、瑪瑙の宝玉の数々、飲んで歌えの連日連夜。

金の匂いが強い所には人々も集まります。

そのような人々はお金が無くなれば、誰もいなくなり口も利いてくれません。

そんな生活を二度も繰り返した杜子春が、三度目に老人が現れた時には「もう、お金はいらないから、あなたのような仙人になるために弟子にして欲しい」と願い出ます。

お金だけが目当ての人々の姿に愛想が尽きてしまったのです。

仙人は「何があっても口を開いてはならない」そういった課題を残し、杜子春を一人残し何処かへ行ってしまいました。

仙人との約束を頑なに守る杜子春に対して、様々な恐怖体験が襲ってきますが、耐え忍ぶ杜子春。

挙句の果て殺された杜子春はあの世で閻魔大王の前に立たされても、だんまりを貫きます。

ここまでくれば杜子春の本気さが伝わってきて、よほど浮世での人間に愛想が尽きたのだろうと杜子春を応援したくもなりました。

地獄の責め苦をひとしきり経験させられても杜子春は頑張ります。

地獄

ここでの芥川龍之介氏の地獄の描写が可笑しくて不謹慎ながら笑ってしまいました。

杜子春は無惨にも、剣に胸を貫かれるやら、焔に顔を焼かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剥がれるやら、鉄の杵に搗かれるやら、油の鍋に煮られるやら、毒蛇に脳味噌を吸われるやら、熊鷹に眼を食われるやら……

杜子春はよく黙っていられたものだと思います。

しかし、馬になった両親が杜子春の前で鞭で打たれる鬼の仕打ちに、杜子春の決意が挫けそうになってしまいます。

そんな時に聞き覚えのある母の声が一頭の馬から聞こえてきました。

私の心配はいらないから、お前が幸せになれるのなら、それでいいといった母からの愛の言葉です。

杜子春は鞭に打たれて弱り切った馬になった母を抱きしめて、涙しながら「お母さん」と叫んでしまいます。

貧乏になったら見向きもしない世間の人々と違い、自分は苦しくても息子の幸せだけを願う母の心に杜子春は目が覚めたのでした。

杜子春は世間の人々に愛想が尽きたと仙人に言ったのですが、本当は自分自身に愛想が尽きていたのだと思います。

そんな杜子春を母の愛が救ってくれたのではないのかと、私は想像しています。

我に返った杜子春に仙人が尋ねます。

「お前はもう仙人になりたいという望みは持っていまい。大金持ちになることは、元より愛想が尽きた筈だ。ではお前はこれから後、何になったら好いと思うな」

杜子春は晴れ晴れとした調子で「何になっても、人間らしい、正直な暮らしをするつもりです」そう答えました。

革めてこの物語の素晴らしさに気が付けたようです。

水車小屋

以前に読んだことのある作品を、改めて楽しむという遊びを見つけました。

昔に読んだことのある作品を、時間が経過して価値観や人生観にも以前とは違いがある今、再度読み直してみることが私の一つの楽しみです。

大半のものは内容は忘れてしまっていて、タイトル名と作者だけが記憶に残っている場合がほとんどですので、以前とは違う自分が新しい作品を読むような感じになることが楽しくて、私の遊び心に火を灯してくれました。

久しぶりに読み直してみると、忘れていたはずの内容が思い出されたり、その作品を読むに至った経緯なども思い出され懐かしさも堪能できます。

まさに一石二鳥のささやかな趣味を見つけた気持ちです。

また今では、著作権が消滅した作品が「青空文庫」という電子図書で無料で読むことが出来るので、大変ありがたいことです。

芥川龍之介
芥川龍之介

「青空文庫」とは

インターネットの電子図書館が「青空文庫」です。

「本を電子化して、誰でも読めるようにしておくと面白い」という考えから始まった取り組みで、ボランティアの方々のお陰で成り立っています。

著作権が消滅した作品が集められますので古い作品が中心になりますが、古典の名作が無料で読めることは本当にありがたいことだと思います。

日本の名立たる文豪の作品が軒並み揃っていますし、どの時代になっても色褪せない機知に富んだ作品は、後世まで残していきたいものですので、読みたい時に誰でも読めるという発想と、その取り組みは素晴らしいの一言に尽きます。

様々なテキストで読むことができるようですが、私は愛用している電子書籍〈ブックライブ〉で無料で購入できるのでそちらで読んでいます。

実を申しますと〈ブックライブ〉で0円で購入できる書籍を発見したことから、「青空文庫」の存在を知りました。

〈ブックライブ〉も有料の同じ書籍を取り扱っているにも関わらず、「青空文庫」が読めるように取り計らってくれているのにも好感が持てます。

良い発見をしました。

HanaAkari

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