「あるハンノキの話」  今西祐行著 を読んで

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読書感想文〈あるハンノキの話〉 〈今西祐行〉作品を読んで
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ハンノキは原爆投下という一つの行為によって生み出された、幾層もの「忘れることの出来ない痛み」を静かに見守っているようでした。

一本のハンノキが回想するような形で物語が語られています。

ハンノキが見た情景がピカドン以前から、その後までの時間を繋ぐようにしてあるのが、非常に趣がありました。

ヒロシマの町を黙って見守るハンノキが、原爆の日の光景を語ってくれました。

草原に木

今西祐行氏の作品で「ヒロシマの歌」という、同じように原爆のことを題材にした作品と、この「あるハンノキの話」での、原爆の日の描写がほぼ同じなので、一瞬使い回したのではないのかという失礼な考えが頭をよぎりました。

しかし、そうではないのだろうという結論になりました。

おそらく、原爆投下後のヒロシマに救援活動に行った経緯がある筆者ですから、その時に実際に目にした光景なのではないかと感じたのです。

そこに創作やアレンジの余地など無く、たとえ小説とはゆえ、ありのままを記すのみだったんではないのかなと思いました。

絶対に忘れることの出来ない光景だったのではないでしょうか。

何かこの作品には「忘れることの出来ない痛み」があるようでした。

物語の結末にそのように感じました。

ハンノキの木の下で、小さな女の子と男の子が遊んでいます。

カミキリムシに女の子の髪を切らせてじゃれ合うのですが、その女の子が突如「白血病」で亡くなってしまった後の、男の子の行動が痛々しい限りでした。

ある日、女の子の髪は束になって抜け落ちてしまい、間もなくして亡くなってしまったことが、男の子に、どれだけ悔やんでも悔やみきれない痛みを背負わせることになってしまいます。

微笑ましく無邪気の遊んでいただけなのに、その背後には被爆によって仕掛けられた時限爆弾の影が密かに忍び寄っていたなんて…救いようのない悲しさがありました。

男の子は行き場のない怒りをハンノキの下にカミキリムシを見つけると、力いっぱい土に叩きつけて殺すという行為で埋め合わせるのです。

ハンノキは原爆投下という一つの行為によって生み出された、幾層もの「忘れることの出来ない痛み」を静かに見守っているようでした。

黒い木

今西祐行(いまにし すけゆき)氏〈1923年~2004年〉

大阪府出身の児童文学作家です。

広島に原爆が落とされた時には、現地に赴き救援活動を行ったことが印象深いです。

現実にその光景を目の当たりにしたことが、作品を通して伝わってきます。

HanaAkari

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