原爆の下でも人は歌い繋ぐ⁉ 人間の強さを諦めない人の姿を見ました。
児童小説ですので文面に丁寧さと優しさがあり、筆者の優しい気心が表れているように感じました。
ほのかに温かいものがあります。
しかしながら、原爆投下後のヒロシマが物語の舞台になっているので、その悲惨な光景を誤魔化すことなく、率直に描写されているのには痛々しいものがありました。
作者もあえて思い出したい記憶ではないと思うのですが、このような作品を残して下さっているには、人々に伝えなくてはいけない、忘れてはいけない、繰り返してはいけない、そのような思いが勝って筆を執ったのだと思います。
目を背けたいことと向き合いながら、胸の奥が詰まることもあったのかと察します。
この物語は地獄と化した焼けただれたヒロシマの町の中で、出来ることは限られてはいても精一杯の救援活動が、小さな命を繋いだお話です。

目の見えないお母さんが、赤ん坊を守るように抱きかかえたまま息を引き取ります。
お母さんの背中から後頭部にかけて、ずるりと皮が落ちてしまっています。
きっと赤ん坊の盾になったんだ、目が見えないのも原爆が爆発した時に強烈な光で焼けてしまったんだ……それでも赤ん坊を守り続けたのがいたたまれません。
その母の想いが天に通じたのか、赤ん坊は幾人の縁ある人に助けられ、健全に育っていたのが救いでした。
ただ、一筋の光明があるから救いがあるというのは、本当はどうかしているのだと思うことがあります。
もっと根本的なところが改まらない限り、出口のない迷路の中に小さな灯を見つけただけで、結局は堂々巡りに迷宮を彷徨っているような虚しさを感じます。
それでも歌い続けるのが人間の強さなのでしょうか?

今西祐行(いまにし すけゆき)氏〈1923年~2004年〉
大阪府出身の児童文学作家です。
広島に原爆が落とされた時には、現地に赴き救援活動を行ったことが印象深いです。
現実にその光景を目の当たりにしたことが、作品を通して伝わってきます。
HanaAkari