預言にある〈最初の天使〉をはじめ、天使が不死者に加わりました。「聖なる血」上巻
「聖なる血」は3部構成の二番目にあたる作品ですが、前作で手に入れることが出来た、キリストの血で書かれたとされる「血の福音書」を解除することができないまま、物語はどんどん展開して行きました。
自分の意志で進んでいるのではなく、ただ流されているのにも気づかずに…
種類の違う「不死なるもの」が続々と登場して、時系列がこんがらがってしまいました。
「不死は呪い」だという不死者の気持ちも分かりそうです。
ただ血を求めるだけの凶悪な吸血鬼「ストリゴイ」にも、個性が強い者も出てきます。
また神と誓約を結び、殺人鬼の業と戦死するまで生涯向き合うことを誓って、「ストリゴイ」から神の騎士として生きる道を選んだ「サンギニスト」も、それぞれの個性と共に活躍します。
ついには不死なる者「天使」も登場して、この三様の「不死者」だけが登場し、人間の姿が無い時には、いったいこれはどういった光景なのだろうかと、シニカルに口角が上がりました。
物語で人間の重要人物、ジョーダンが時折、共に行動をしているサンギニストに対してこぼす本音が、的を衝いていて可笑しかったです。
「死人にしては話が分かる男だ」
「何十年、何百年と生きている聖職者たちが、法衣姿で現代のテクノロジーを扱っている光景は奇妙なものだった。サンギニストは教会や墓地をさまよっているイメージはあっても、ネットサーフィンをしているところは似合わない」
そんなジョーダンのセリフです。
「悪が勝利をおさめるのに必要なのは、善なる者たちの沈黙だけだ」
なにか不死者と人間がチームになることで、試練に打ち勝っていけるようでした。
人間のジョーダンとエリンの人間らしい思いには、力では遠く及ばない不死者たちにも引けを取らない強さがあるように感じました。
〈最初の天使〉になった元人間の子「トミー」が、周囲の人々には〈最初の天使〉だとして唯一無二の存在だと担ぎ上げられ、翻弄されているのを見てエリンは怒りを感じてこう決意しました。
「違うわ。トミーよ。エリンは少年を冷たい呼称で呼ぶまいと心に誓った。あの子には、彼を愛した両親がつけた立派な名前がある。預言に記された名などよりも、ずっと大事で価値のある名前だ」
派手さと重さがどんどん加速して、オーバードライブ状態「聖なる血」下巻
物語が佳境に近づくにつれ、神、罪、死、復活、再生といった要素が増してきて、どんどん展開する状況に夢中になり一気に読み漁ってしまいました。
大きな罪の償いを解消することが目的であり、それが人類の存続に関わるほどに極限の勇気と判断に迫られる様子を見ていると、何が正解なのかが分からなくなってしまいました。
登場人物たちはそれぞれ自分の信じる道を選んでいくのですが、そこにも三者三様の違いがあって、いつしか私も一緒になって、自分ならどうするだろうか?と考えていました。
結局は「何処まで行っても傍観者」でした。
たとえ誰であっても過ちを犯し、道を踏み外す可能性がある…
わたしたちはみな、神の道具でしかないのだ…
世界を救うためでも、あの子を殺すことはできないわ…
わたしたちがこの武器を手にしていたら…この世界でどれだけの命が救われたことか…
そして、どれだけの害をあなたがたがこの世界になしたことか…
このように「聖なる血」はテーマが重くても、物語は軽快に派手に展開してゆくから面白いのです。
さらに時々、クスっとしてしまう文面が出てくるのが好きです。
ジョーダンは、目の前の残忍な殺し屋と法衣に身を包んだ敬虔な宗教者を重ねるのに苦労せざるを得なかった…
中世のヨーロッパからの長い眠りから覚めたエリザベスと、現代の少年トミーのやり取りも可笑しくてクスッとポイントでした。
HanaAkari