時の権力者に虐げられた者達の、意地のある生き様と美しさに胸を打たれる。
歴史はその時の権力者によって、都合のいいように塗り替えられ伝えられていることは、今では周知の事実となりましたが、そのような日陰に追いやられた者達にスポットライトを当てた時代小説です。
日本史において平安時代と呼ばれる時代は、貴族文化が花開いた時代とされ、庶民と貴族との間には浸食し難い垣根があったとされています。
支配者と支配される者の関係がはっきりとしていた時代でした。
華やかな貴族の生活の裏には、血税に苦しく庶民の辛苦があったはずです。
さらには一般的な庶民の他に、朝廷の支配下に与さない、独自の文化を継承する人々がいました。
土蜘蛛(つちぐも)、鬼、夷(えびす)、童(わらべ)などと呼ばれ、支配下に収まらない厄介者として中央政権からは煙たがられ、虐げられた人々です。

「死人に口なし」
平将門を筆頭に逆賊とされた人々が、本当はどのような人々であったのかは分かりませんが、表立って伝わっている歴史がいうように、全面的に悪者のはずはないと思いますので、隠蔽された裏の歴史があるはずです。
「童の神」はそういった歴史に隠蔽された人々を、主役にした物語になっており、時の権力者によって汚名を着せられ、葬り去られた者達の積年の想いや愛に光を当てることで、人として失ってはならないものは何か?ということを語りかけてくれました。
非常に読みごたえがあり、何が本当の事なのか?何が作り話なのか?が分からなくなる程に、物語の世界にのめり込み、散り際の美学にいたく感動しました。
主な登場人物
童(わらべ)の仲間
桜暁丸(おうぎまる)…越後蒲原群(かんばらぐん)の豪族の出。出生に曰くあり。後に「鬼」と呼ばれるようになる。
袴垂(はかまだれ)…正体不明の大盗賊
花天狗(はなてんぐ)…検非違使や武官しか狙わない兇賊
畝火(うねび)=土蜘蛛(つちぐも)…大和葛城山の民
粛慎(みしはせ)=鬼…丹波大江山の民
滝夜叉(たきやしゃ)…摂津竜王山の民、元愛宕山の盗賊
源 高明(みなもとのたかあきら)…左大臣 部下:藤原千晴(ふじわらのちはる)

朝廷側の人物
源満仲(みなもとのみつなか)…洛中随一の武官
嫡男:源頼光(みなもとのよりみつ)
配下:渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいさだみつ)
安倍晴明(あべのせいめい)…陰陽師、天文博士
坂田金時(さかたのきんとき)…相模足柄山出身の民
息子:金太郎(きんたろう)のちに蔵人(くらんど)
犬神(いぬがみ)、夜雀(よすずめ)…元土佐の民
あらすじ
桜暁丸(おうぎまる)を中心に、数世代に渡り、虐げられた民と朝廷側の戦いが繰り広げられる。
答えの見えないままに時代の流れの中でもがく童(わらべ)の生き様が、継承され、そして逝く。
朝廷側の渡辺綱(わたなべのつな)は、桜暁丸(おうぎまる)や童(わらべ)に理解を示し歩み寄るが、双方共に大きな奔流を変えることは出来ず、桜暁丸(おうぎまる)と渡辺綱(わたなべのつな)の二人は、立場の違いから最後まで剣を交えることなる。
桜暁丸(おうぎまる)と渡辺綱(わたなべのつな)の二人の関係性に、切ないながらも注視せずにはいられない。

作中で、紆余曲折があり童(わらべ)の女と夫婦になった朝廷側の男と桜暁丸(おうぎまる)が言葉を交わす場面があり、男が「お主は何が望みなのだ」と桜暁丸(おうぎまる)に問う。
桜暁丸(おうぎまる)は「お主のような者ばかりの世にすることだ」と答える。
真の平和とは何なのだろうか?と考えさせられる物語です。
HanaAkari