「キリストの誕生」 遠藤周作著 を読んで

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キリストの誕生〈読書感想文〉 〈遠藤周作〉作品を読んで
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「イエス」は担がれて「キリスト」になったのか?

遠藤周作氏の「イエス・キリスト」像は、人間「イエス」が愛の神を身近な人々に伝えながら、最後には世俗的な「救世主」を求めていた人々に見限られ裏切られて処刑される顛末に、転換点があったという発想にあるように感じました。

剣を携え旗を振って、虐げられる人々の苦しい現状の社会を覆してくれる「救世主」を誰もが求めていたにも関わらず、無力で何も出来なかった「イエス」、愛の言葉のみで諭し続けることしか出来なかった「イエス」がなぜ、人々にとって「キリスト」=「救世主」となったのか?自身の考えを全力で「キリストの誕生」にぶつけられているので、おのずとこちらも真剣に向き合うことになりました。

「イエス」が処刑される時に、弟子たちは保身のため「イエス」に一度は背を向けた弱虫だったのになぜ、「イエス」の死後、突如としてその教えを命を懸けて人々に伝え続けることが出来たのか?

「イエス」の惨たらしい死によって、裏切った自分に対する強い悔恨が起こり、そして心に火が灯された。

弱虫ながらでも「愛」を伝えるためにそれこそ這いながら、暗中模索の中歩み出したのではないか。

私もそう思います。

ステンドグラス

またそれには、食べていかなければならない現実面もきっとあったであろうと想像しました。

それこそが肉体を持って生きる人間の葛藤なのだと思います。

純粋な「愛」の教えは次第に宗教組織となり、組織を維持させる為に着色され、人間「イエス」は「キリスト」=「救世主」に祀り上がられていくことになったのではないでしょうか。

そのお陰で「福音書」が現代にまで残されていることは有難いことですが、当然歴史の中で時々の色んな思惑が積み重なり純粋さは失われていると思われますから、そこにある光は自分自身で探究する姿勢が大切だと思います。

「イエス」が生前、それまでのユダヤ教の律法や神殿に対しての発言で、それらを根底から覆すことを言って人々を驚かせたようですが、それこそが答えだったのではないでしょうか?

ユダヤ教の律法を厳守することこそが何よりも大切だとされている世の中にあって、その律法が決めた安息日の厳守に対し「人が安息日のためにあるのではない。安息日は人のためにあるのだ」と言ってのける勇気。

周囲にいた弟子たちも青ざめるような常識破りな発言、律法や神殿よりも大切なもの、永遠なる「愛」を伝え、無惨にも神の救いもなく殺されてしまった「イエス」が、愛の「キリスト=救世主」となったのだと。

そしてその弟子たちの最後も「イエス」のような死が訪れていたのだということを、歴史の流れと共に知りました。

ローマ最狂の暴君「ネロ」の時代に起こった、キリスト教徒に対する惨劇はもしかしたら純粋な「愛」から、またしても悪政の世に対して「キリスト」が復活して世界を救ってくれると思う人々の、勘違いした思いが膨れ上がったことで、対立意識が大きくなり起こってしまったのではないでしょうか?

皮肉です。

キリスト

もしかしたら裏切者の「ユダ」だけが、「イエス」の真意の理解者だったのではないかと思いました。

「イエス」は当時のユダヤ教の神に対して、神とはそういったものではなく「愛」であり、神の「愛」は分け隔てなくすべての人々にあるもので、それに基づいて生きようと伝えたのだとしたら、宗教組織として成立していた当時のユダヤ教のあり方を否定したことになります。

「宗教」は違います、「愛」ですと言っているようです。

命を懸けた「イエス」に胸を打たれた弟子たちでしたが、「イエス」の死後、宗教組織を作ってしまったことは、もしかしたら何かを知らず知らずのうちに取り違えてしまったのではないかと思います。

現実に生きていくためだったのかもしれません。

しかし、唯一裏切者の代表ともいえる弟子の一人「ユダ」だけは、いち早く「イエス」の元を離れたので宗教とは無縁なのです。

「イエス」の伝えたかったことが、神の「愛」だということをいち早く汲み取り、それは組織の存続や人間の考える俗な幸せとは違ったものだと理解していたのが、もしかしたら「ユダ」だったとは考えられないでしょうか?

ユダ

「ユダ」は周囲からは裏切者に見られたでしょうが、実は「キリスト」の真意を汲み取れる人が、12分の1人いたということではないでしょうか?

これはただのひねくれ者の私の妄想ですが、「ユダ」はそんな役だったのではないかと思ったのです。

ですが仮に「ユダ」が真意を汲み取ったとしても、他の弟子たちが後世の人々に伝えてくれなければ、今日の私がこんなことを考えることも無かったでしょうから、どちらも必要なことだったのではないのかと、灰色解釈に収めておこうと思います。

HanaAkari

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