「時間がない」「忙しい」という感覚について考えさせられます。
時間泥棒がもっともな言い分で、人々の時間を搾取する陰謀を〈モモ〉という純粋な少女が阻止して、世界を救う物語でした。
時間節約こそ幸福への道!
時間節約してこそ未来がある!
時間は貴重だ…無駄にするな!
時は金なり…節約せよ!
私はこれらの意見には賛成ですので、時間泥棒の口車に簡単に乗せられて時間を奪われてしまう可能性は強いだろうなと思いながら本を読み進めました。
人として大切な時間、例えば他の人が喜んでくれるから、無駄と思えることにでも毎日欠かさずに時間を費やせる、そういった人としての時間まで無駄だとしてしまった結果がどうなるのかという、この物語の世界には恐怖すら覚えました。
あながち間違ってないような時間節約の大切さの大義名分の裏に、人として大事な部分まで削ぎ落としてしまう危険性は、我が身にも当てはまる節は多くあるからでした。
知らない間に時間の奴隷になってしまった人々を、純粋な心を持つ少女〈モモ〉が救うのですが、人の心を失わなかった〈モモ〉だからこそ可能だったのでしょう。
灰色の時間泥棒たちが時間を搾取する恐ろしい世界でしたが、本当のところ、自ら時間節約の名の基に大切な心を明け渡してしまった結果だといえるのが、この病の怖いところでした。
私もこの「時間がない」「忙しい」病には感染しているなぁ~と、この物語に教えてもらえたみたいです。
ただ現実には物語のようにハッピーエンドで良かった良かったと簡単に幕が降りるはずもなく、自らに問いただす必要があるところが苦しかったりします。
自分の胸に手を当てて、自分の心と時間に向き合うのは、時に都合が悪かったりしますので、「忙しくて時間がない」としてしまう方が安易なのですから…困ったものです…
物語の最後「作者のみじかいあとがき」に面白い描写がありました。
この物語は作者が汽車に乗って長い旅をしている時に、出会った不思議な人から聞いたことを文字にしたそうです。
不思議な人が最後に言い残す言葉が、絶妙なのです。
「わたしはいまの話を過去におこったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとしてお話してもよかったんですよ。わたしにとっては、どちらでもそう大きなちがいはありません」
「忙しい」「時間がない」という感覚はどちらかといえば、未来に行けば行くほど大きくなっているように思いますし、便利になればなるほど、そうなっているようでもありますので、どちらかといえば未来の話だったのでは?と私は感じました。
HanaAkari