それぞれの心のあり様に、新しい変化も見えてきて結末へ向けての、心の準備がされていくようでした…「穢れた血」上巻
一難去ってまた一難。
次から次に課題が表れてきて登場人物たちが、休む間もなく大きな奔流に流されているのは変わらないのですが、この巻ではその流れが少し緩やかな場所に差し掛かったように感じました。
下巻から始まる怒涛の流れの前の、嵐の前の静けさです。
その分、人物の胸の内側に着目でき、それぞれの思い、善、悪、信念、疑念、愛、恋、恋慕、執着、諸々、この物語は空前絶後な内容に驚く以上に、それぞれの人の心が交錯しながら、仲良しこよしでおてて繋いで行動を共にするのではなく、お互いに狡猾な野心や裏心も含みながらも、目的達成の為に全力を尽くすところに惹かれるのだと思います。
特殊な化け物たちの戦いの物語なのに、その化け物たちの心は普通の人間以上に人間らしいのが、親近感がわくところです。
吸血鬼でありながら教会の戦士でもある〈サンギニスト〉たちが、殺人吸血鬼〈ストリゴイ〉や天使のことは信じても、錬金術師が泥から作りだした巨人〈ゴーレム〉は信じれれないといったくだりなんかは、微笑ましい限りでした。
怒涛の血で血を洗う展開が圧巻。いつも「血」が鍵となって…「穢れた血」下巻
「穢れた血」下巻の目まぐるしい怒涛の展開には、手に汗握るものがありました。
正直、「これ、大丈夫なのか?」「ヤバイだろう」と気に病むことの連続でえげつなく、息つく暇もないほどでした。
命の危機が何度も迫り、追い込まれて行けば行く程、生々しさが前面に押し出されてきて、血と肉の感覚、生命力が奮い立ち、鬼気迫りながらどんどん爆ぜていきました。
人間らしさの嫌な部分から目を逸らさず、諦めないことで活路が見出されていくようでした。
それにしても「血」の巡りがどれほど入り乱れるのかと、ハラハラさせられました。
「受け入れること、そして、自分の心と向き合うことで平安は得られる」
もしかしたらこのようなセリフは、心拍数の上がった読み手に向けて語られたのかも…
とにもかくにも圧巻のストーリー展開は壮絶でしたが、所々に百戦錬磨の人々が、生きる知恵を教えてくれるのも素晴らしかったです。
個人的には教会の騎士として生きることを強いられた〈ルーン〉の存在がとても魅力的でした。
神の赦しのもと教会の騎士として生きるのが〈サンギニスト〉であるはずだと、〈ルーン〉は信じて疑わなかったのが…
別の道がある可能性を知り、恐怖と怒りの両方の感情を持つあたりには、心の闇にある矛盾を表しているようで、奥深いものがあるように感じ、静かに応援したい気持ちになりました。
最後は思わず「うわぁっ」と声を上げてしまいました。
HanaAkari