深い悲しみの奥に心があるのが…救いであると信じたい。
「フランダースの犬」は、子供の頃に世界の名作としてテレビアニメの再放送で何度も見ましたが、長い年月を経てこの物語を改めて小説で読んでみると、どうしてこのような悲しい物語をあえて見せるのだろうか?と子供目線でなく、大人目線というか、動機は何だったのだろうか?と考えてしまいました。
悲しみ、切なさの裏側には美しさも存在していますし、この物語の最後も一見浮かばれないように映りますが、同時に美しさも感じるのです。
「もののあわれ」のような情緒を愛する日本人の気質には、合っているのかもしれません。
物質的な幸せ以外にも、心の幸せが存在することを、貧しい少年ネルロと老いた忠犬のパトラッシュが、改めて教えてくれました。
そしてこの物語には人間の嫌な面の性質が率直に描かれていますが、児童小説という枠を超えて、すべての人に、「あなたはどっちを選びますか?」と投げかけているようでした。
物語の中に重要な位置で登場する、有名な宗教画家ルーベンスの絵〈キリストの昇架〉で十字架に掛けられている、〈イエス・キリスト〉は「人はパンのみにて生きるにあらず」と語ったそうです。
しんしんと悲しみの積もる結末の少し前に、忠犬パトラッシュの心を表現する文面がありました。
死にかかっていた所を、幼かったネルロとおじいさんが助けてくれた思い出でした。
パトラッシュはその疲れ切った足が続く限り、暗い夜の雪道を走りに走って行きました。ただひたむきにネルロの跡を追うばかりです。もしこれが人間であったら、あるいはそのおいしい御馳走と、暖かい炉端と、安楽な眠りとに誘われて、止まったかもしれません。が、しかしパトラッシュは、この老いたフランダースの犬は、遠い昔を忘れてはいませんでした。あのおじいさんと幼児が、道端の泥溝に息絶った自分を救い上げ、見守ってくれてたその遠い昔を。
「もしこれが人間であったら…」
一瞬、作者の人間に対する「絶望」が見えた気がして背筋が凍りました。
健気な犬のパトラッシュは、パンを選ばずに心を選んだけれど、もし人間だったらパンを選んだだろう…
ネルロとパトラッシュが死に至る前の村人たちのあり方に、パトラッシュが一石を投じる場面でした。
以前に読んだことのある作品を、改めて楽しむという遊びを見つけました。
昔に読んだことのある作品を、時間が経過して価値観や人生観にも以前とは違いがある今、再度読み直してみることが私の一つの楽しみです。
大半のものは内容は忘れてしまっていて、タイトル名と作者だけが記憶に残っている場合がほとんどですので、以前とは違う自分が新しい作品を読むような感じになることが楽しくて、私の遊び心に火を灯してくれました。
久しぶりに読み直してみると、忘れていたはずの内容が思い出されたり、その作品を読むに至った経緯なども思い出され懐かしさも堪能できます。
まさに一石二鳥のささやかな趣味を見つけた気持ちです。
また今では、著作権が消滅した作品が「青空文庫」という電子図書で無料で読むことが出来るので、大変ありがたいことです。
「青空文庫」とは
インターネットの電子図書館が「青空文庫」です。
「本を電子化して、誰でも読めるようにしておくと面白い」という考えから始まった取り組みで、ボランティアの方々のお陰で成り立っています。
著作権が消滅した作品が集められますので古い作品が中心になりますが、古典の名作が無料で読めることは本当にありがたいことだと思います。
日本の名立たる文豪の作品が軒並み揃っていますし、どの時代になっても色褪せない機知に富んだ作品は、後世まで残していきたいものですので、読みたい時に誰でも読めるという発想と、その取り組みは素晴らしいの一言に尽きます。
様々なテキストで読むことができるようですが、私は愛用している電子書籍〈ブックライブ〉で無料で購入できるのでそちらで読んでいます。
実を申しますと〈ブックライブ〉で0円で購入できる書籍を発見したことから、「青空文庫」の存在を知りました。
〈ブックライブ〉も有料の同じ書籍を取り扱っているにも関わらず、「青空文庫」が読めるように取り計らってくれているのにも好感が持てます。
良い発見をしました。
HanaAkari