何度も途中で読むのを放棄した本でしたが、改めて読んでみるとその理由が分かりました。そして面白かったです。
中学生の頃に「人間失格」というタイトルに非常に興味が湧き、何度か読んでみましたが、一度も最後まで読むことが出来なかった本です。
当時私は、陰に籠もり不登校の時期があったので、そういった時はどんどん自分のことが嫌いになったものです。
周囲からは心配されながらも怪訝な目で見られ、自分自身でも他の人と比較して「まともじゃない」という思いもあったので、「人間失格」これは私のことだと思ったのが、読書を試みたきっかけでした。
ただいざ「人間失格」を読み始めると、古い文体が取っつきにくいのもあったと思うのですが、どうしても読み進むことが出来ずに途中で止めてしまうのでした。
改めて今になって読んでみたらその理由が分かりました。
人生経験の少ない子供には理解出来ない大人の恋愛模様を描いた作品ですので、チンプンカンプンでしかなかったはずです。
内容が理解できないので、当然つまらなくなり途中で放棄したのでしょう。
それも大人の恋愛模様でもあまり多くの人が体験するようなものでなく、社会の灰汁のようなものが染み付いた人情劇というのか、ムード歌謡のような情景なのですから無理もない話です。
女に惚れられ幾度も泥沼から救われ、またそれが新しい泥沼となりながら、自らのことを「人間失格」だと称する主人公は確かに与太郎かもしれません。
しかし、そんな与太郎が酒と女と共になんとか生きていくことが出来た時代に、何かしらの救いを感じました。
近頃の一度失敗したらハイ終わり、といった風潮にはない人の温かみがあるようで、人間らしい安堵感があります。
そういったことも人間にとっては大切な要素なのかもしれません。
作中で主人公が面白いことを語っていました。
自分には団体生活というものが、どうしても出来ません。それにまた、青春の感激だとか、若人の誇りだとかいう言葉は、聞いて寒気がして来て、とても、あの、ハイスクール・スピリットとかいうものには、ついて行けなかったのです。
もしこういったことが「人間失格」の要素だとすれば私は完全に「人間失格」になりますが、それはそれで良いところもあれば、そうでない人もいるし、卑下する必要もないし、例えどんなであれお互いを尊重することを大切に出来れば、全員「人間失格」の世の中でより良く生きていけるのではないのかと思ったりします。
何が「合格」かも分からないので、全員「合格」でもいいようにも思えます。
斜に構えていた主人公がさらに面白いことを語っていました。
世の中に対してそんなに恐ろしいところではないと思うようになった理由をこう分析していました。
それは「科学の迷信」に脅かされていたようなものだったそうです。
現に身の回りには、ばい菌など目に見えないものが無数に蠢いていて、いつも危険な状態に身を置いているという類の恐怖のようなものは、その問題を完全に黙殺さえすれば、それは自分とみじんもつながりが無くなってたちまち消え失せる「科学の幽霊」に過ぎないのだと。
自分が世の中のことが恐かったのは、思い込みのようなものだったということでしょう。
「科学的統計」を鵜呑みにして恐れていたようなものだとして「科学の嘘」「統計の嘘」「数学の嘘」に囚われていたのだと。
これは人間失格者にだけ見える光景なのでしょうか?
なぜか失格した先に見えた境地のように感じました。
以前に読んだことのある作品を、改めて楽しむという遊びを見つけました。
昔に読んだことのある作品を、時間が経過して価値観や人生観にも以前とは違いがある今、再度読み直してみることが私の一つの楽しみです。
大半のものは内容は忘れてしまっていて、タイトル名と作者だけが記憶に残っている場合がほとんどですので、以前とは違う自分が新しい作品を読むような感じになることが楽しくて、私の遊び心に火を灯してくれました。
久しぶりに読み直してみると、忘れていたはずの内容が思い出されたり、その作品を読むに至った経緯なども思い出され懐かしさも堪能できます。
まさに一石二鳥のささやかな趣味を見つけた気持ちです。
また今では、著作権が消滅した作品が「青空文庫」という電子図書で無料で読むことが出来るので、大変ありがたいことです。
「青空文庫」とは
インターネットの電子図書館が「青空文庫」です。
「本を電子化して、誰でも読めるようにしておくと面白い」という考えから始まった取り組みで、ボランティアの方々のお陰で成り立っています。
著作権が消滅した作品が集められますので古い作品が中心になりますが、古典の名作が無料で読めることは本当にありがたいことだと思います。
日本の名立たる文豪の作品が軒並み揃っていますし、どの時代になっても色褪せない機知に富んだ作品は、後世まで残していきたいものですので、読みたい時に誰でも読めるという発想と、その取り組みは素晴らしいの一言に尽きます。
様々なテキストで読むことができるようですが、私は愛用している電子書籍〈ブックライブ〉で無料で購入できるのでそちらで読んでいます。
実を申しますと〈ブックライブ〉で0円で購入できる書籍を発見したことから、「青空文庫」の存在を知りました。
〈ブックライブ〉も有料の同じ書籍を取り扱っているにも関わらず、「青空文庫」が読めるように取り計らってくれているのにも好感が持てます。
良い発見をしました。
HanaAkari