清濁併せ吞む人の性。純粋な清い心を持つのは畜生の猿だった。
地獄とは人の心のことのように思えてしまう、異様な雰囲気に一瞬寒気がする物語でした。
読書後の爽快感などは皆無で、心にうてったような鈍い障りを感じました。
人の心の中には愛情と残忍さが同居しているのだということを、芥川龍之介流に皮肉ったのだろうか?と思います。
清いものだけで生きることが出来ない人間の本質部分を見せられたようで、善人の仮面を被っている時は見ないようにしている部分だし、悪人の仮面を被っている時は共感するだろうし、普通人の仮面を被っている時には、日和見にしている部分を浮き彫りにしてくれました。
善人の仮面を被っている時の私でしたら、わざわざ嫌な所を掘り出されて不快さを感じるでしょう。
もしかしたらそんな綺麗ごとに現を抜かしている善人面の裏側を見せてみろよと、このお話は挑発しているのかもしれません。
完成した地獄絵を見た大殿様が、膝を打って「出かし居った」と一声あげたのが、印象深い場面です。
絵師は地獄絵を完成させるために、自分の娘が生きたまま焼かれていく姿を目に焼き付けた経緯がありました。
絵師は苦渋にさいなまれながらも、絵師としての性によって最高傑作の地獄絵が完成させたのです。
絵師と大殿様も、地獄絵の完成と共に地獄へと入ってしまいました。
対して救いのような描写もありました。
生きたまま焼かれる娘を追って、娘が可愛がっていた猿も同じ火の中に飛び込んで行ったのです。
人の心は鬼畜にあって、畜生の猿は清く純粋な心のままに尽くすという、いかにも芥川龍之介氏らしいシニカルな表現だと思いました。
無料の電子図書館「青空文庫」について
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著作権が消滅した作品が集められますので古い作品が中心になりますが、古典の名作が無料で読めることは本当にありがたいことだと思います。
日本の名立たる文豪の作品が軒並み揃っていますし、どの時代になっても色褪せない機知に富んだ作品は、後世まで残していきたいものですので、読みたい時に誰でも読めるという発想と、その取り組みは素晴らしいの一言に尽きます。
様々なテキストで読むことができるようですが、私は愛用している電子書籍〈ブックライブ〉で無料で購入できるのでそちらで読んでいます。
実を申しますと〈ブックライブ〉で0円で購入できる書籍を発見したことから、「青空文庫」の存在を知りました。
〈ブックライブ〉も有料の同じ書籍を取り扱っているにも関わらず、「青空文庫」が読めるように取り計らってくれているのにも好感が持てます。
良い発見をしました。
HanaAkari